近年、東京のファッションシーンでは、派手さを前面に押し出すトレンドから一歩離れ、「静かなラグジュアリー(サイレントラグジュアリー)」と呼ばれるスタイルが急速に注目を集めています。ブランドロゴや過剰な装飾を控え、素材やシルエット、ディテールの質の高さで価値を表現するこの流れは、特に都市部に暮らす20代後半から40代の大人の層に支持されています。新宿や表参道、銀座など、東京の街角を歩くだけで、こうした静かで洗練された装いが日常の風景に溶け込む様子が目に入ります。
静かなる存在感
静かなラグジュアリーとは、派手なブランドロゴや過剰な装飾に頼らず、素材の質感やカッティングの美しさ、微妙な色合いの組み合わせで上質さを示すスタイルです。たとえば、カシミアのセーターに極細のウールパンツ、シンプルなレザーバッグを組み合わせるだけで、自然と高級感を醸し出すことができます。この「さりげなさ」が、逆に街中での存在感を強めるのです。
東京では、特に表参道ヒルズや青山周辺のカフェ、銀座のブティック街で、こうしたスタイルを身につけた人々を頻繁に見かけます。見た目は一見控えめでありながら、触れたり近づいたりすると、素材の質や仕立ての精緻さに思わず目を引かれる——まさに「静かな主張」が街を席巻しているといえるでしょう。
トレンドの背景
なぜ、東京で静かなラグジュアリーがこれほど注目されるようになったのでしょうか。一つの要因として、SNSの発達があります。過剰なブランドアピールや目立つ装飾は一瞬で情報に埋もれてしまいますが、上質な素材やシルエットの美しさは、写真や動画でも洗練された印象として伝わりやすいのです。また、都市部での生活が忙しく、ストレスフルになりがちな現代人は、派手さよりも落ち着きや安らぎを求める傾向にあります。
加えて、近年のサステナブル志向もこのトレンドを後押ししています。大量生産・大量消費のファッションから離れ、長く愛用できる素材やクラフトマンシップを重視する静かなラグジュアリーは、環境への配慮とも自然に結びつくのです。古くなった服を修理したり、上質な一点物を選んで長く着る——こうした考え方は、東京のファッション愛好家に浸透しつつあります。